ものの人類学2
鍛冶屋と鎚の対話、神が宿るとされる石等、世界各地の多様な「もの」と人間の関係を分析し、「ひと」と「もの」の境界に迫る。 「ひと」と「もの」の境界は何か。それは極めて不明瞭で流動的で、両者はときに一体となる。鍛冶屋と鎚の対話、将棋ソフトと人間の棋士の相互作用等、多様な事例をもとに編み上げた、人間中心主義を超える斬新な人類社会論。 日々スマホを使ってチャットをし,乗り物を使って移動し,パソコンを開いて思考する私たち.これらの「もの」は非人間の「もの」なのか,「ひと」の一部なのか,それとも私たち自身がじつは「もの」なのか? 鍛冶屋と鎚の対話,将棋ソフトと人間の棋士の相互作用,ひとが「ひとでなし」化されたホロコースト等、世界各地の多様な事例をもとに「もの」と「ひと」の混淆した関係を暴く,斬新な人類社会論. 序 章 新たな「もの」の人類学のための序章 —脱人間中心主義の可能性と課題 [床呂郁哉・河合香吏] 1 「もの」からの出発 2 「もの」をめぐる逆説的状況 3 関連諸分野における「もの」への回帰 4 人類学における「もの」研究の系譜 5 新たな「もの」概念へ 6 本書の扱う問題群—脱人間中心主義的な人類学へ向かって 7 本書の構成と各章の概要 8 結びに代えて—脱人間中心主義的人類学の可能性と課題 第Ⅰ部 ひとともののエンタングルメント 第1章 ものが生まれ出ずる制作の現場 —鉄と道具と私の共同作業 [黒田末寿] KEY WORDS:農鍛冶,手仕事,道具の循環,共成長,制作の対話モデル,ものの主体化,未完の思想 1 鍛冶見習い 2 技術者松浦清さん 3 鍛冶の基本作業 4 鉄を打つ感覚 5 ものが私を呼んでいる 6 制作者・道具・使用者の共なる成長 7 ものが生まれ出ずる文化 8 ものが生まれ出ずる文化の広がりと制作の両義性 9 成長する制作物,未完の思想 第2章 「もの」が創発するとき —真珠養殖の現場における「もの」,環境,人間の複雑系的なエンタングルメント [床呂郁哉] KEY WORDS:真珠養殖,流体的なテクノロジー,エンタングルメント,創発 1 「ひと」と「もの」のエンタングルメントの人類学へ 2 真珠とは何か 3 真珠養殖の民族誌—近代的真珠養殖技術の概要 4 流体的なテクノロジーと「もの」・環境・人間のエンタングルメント 5 「もの」の創発と複雑系—設計主義を越えて 6 結語—新たなマテリアリティ研究へ向けて 第3章 存在論的相対化 —現代将棋における機械と人間 [久保明教] KEY WORDS:将棋,コンピュータ,存在論的転回,比較,可塑性 1 怖がらないコンピュータ 2 それはいかなる転回か 3 比較の可塑性 4 相対化の実定性 Column 1 人工物を食べる—遺伝子組み換えバナナの開発 [小松かおり] EYWORDS:遺伝子組み換え,ゲノム編集,バナナ 第Ⅱ部 もののひと化 第4章 絡まりあう生命の森の新参者 —ボルネオ島の熱帯雨林とプナン [奥野克巳] KEY WORDS:諸自己の生態学,意思疎通,狩猟民プナン,複数種の絡まりあい,マルチスピーシーズ人類学 1 諸自己の生態学にみられる意思疎通 2 エクアドル・アヴィラの森のハキリアリをめぐる複数種の絡まりあい 3 ボルネオ島の熱帯雨林の生態学 4 ブラガの森の一斉開花・一斉結実期における複数種の絡まりあい 5 森の新参者たちの過去,現在,未来 第5章 サヴァンナの存在論 —東アフリカ遊牧社会における避難の物質文化 [湖中真哉] KEY WORDS:存在論的比較,国内避難民,遊牧,レジリアンス,最低限のもののセット 1 東アフリカ遊牧社会における存在論 2 紛争と国内避難民 3 遊牧民の国内避難民の物質文化悉皆調査 4 避難の物質文化—民族集団B,C,D の比較分析 5 最低限のもののセット 6 サヴァンナの存在論へ向けて 第6章 石について —非人工物にして非生き物をどう語るか [内堀基光] KEY WORDS:自然物,人工物,岩田慶治,五来重,アニミズム 1 「ひと」の手にならない「もの」 2 「ひと」の痕とその連鎖 3 「もの」に「ひと」を見る—岩田アニミズム 4 「もの」に「ひと」を見る—石の宗教 5 より「即物的」に Column 2 観察するサル,観察される人間 —非人間であるとはどのようなことか [伊藤詞子] KEY WORDS:人間と非人間,フマニタスとアントロポス,自己と他者,区別と関係 第Ⅲ部 ひとのもの化 第7章 「もの人間」のエスノグラフィ —ラスタからダッワ実践者へ [西井凉子] KEY WORDS:もの人間,ラスタ,ダッワ,髪,声,水 1 「もの人間」という事態 2 ファイサーンとポーンの住むパーイという町 3 ラスタの世界 4 ラスタからダッワへの移行 5 ダッワ実践者になる 6 結論にかえて—もの人間,生成する出来事 第8章 中国黄土高原に潜勢する〈人ならぬ—もの〉の力 [丹羽朋子] KEY WORDS:中国黄土高原,儀礼行為,イメージ=力,変異する出来事としての「もの」, 陰陽の境界域,剪紙が描く生の力線 1 〈人ならぬ—もの〉とはなにか 2 黄土高原の〈天地〉に生動する非人格的な力の捉え方 3 徴候的な力に触れる—災いへの対処儀礼 4 鬼への変化と孝子への変身—陝北の葬送儀礼 5 生生不息の剪紙—老女たちが描く生々流転する世界 6 まとめに代えて 第9章 〈ひとでなし〉と〈ものでなし〉の世界を生きる —回教徒とフェティシストをめぐって [田中雅一] KEY WORDS:アウシュヴィッツ,ホロコースト,フェティシズム,商品カタログ,ゾンビ 1 人とものとの否定的な関係 2 アウシュヴィッツの回教徒〈ひとでなし〉の出現 3 複製技術とフェティシズム—〈ものでなし〉の出現 4 ゾンビ・回教徒・フェティシスト Column 3 音となったコトバ—インドネシア,ワヤン・ポテヒの出場詩 [伏木香織] KEY WORDS:音,言葉,文字,ワヤン,ポテヒ,布袋戯,su liam pek,suluk,インドネシア,東ジャワ 第Ⅳ部 新たなもの概念 第10章 数からものを考える —『無限の感知』を参照しつつ [春日直樹] KEY WORDS:数,無限,神話,支払い,リズム 1 なぜ数をもちだすのか 2 パプアニューギニア,イクワィエ人の数え方 3 数の構造とイクワィエ人の再生産 4 神と人間,男と女 5 1,2,1,2,……の反復と無限 6 数とものの結びつき 7 「項目と数」によるアナロジー 8 リズムを含めて考える 9 ものを数で考えること 第11章 五感によって把握される「もの」 —知覚と環境をめぐる人類学的方法試論 [河合香吏] KEY WORDS:環境,五感,生態的参与観察,経験の共有,共感 1 「身の回り世界」と知覚 2 背景—「音」のもの性についての試論 3 五感をめぐる二つの視点—五感の統合性と五感の共鳴 4 知覚を扱う方法論—生態的参与観察 5 「五感」に基づく知覚世界とその社会的共同性(五感の共鳴)の普遍性に向けて 6 結びにかえて Column 4 使い終えた授業ノートをめぐって—ゴミとして識別されていく過程を人—「もの」関係としてとらえる試み [金子守恵] KEY WORDS:授業ノート,ゴミ,人—「もの」関係 第Ⅴ部 ものの人類学を超えて —動物研究と哲学からの視線 第12章 「人間」と「もの」のはざまで —「動物」から人類学への視点 [中村美知夫] KEY WORDS:動物の視点,存在論的転回,非人間,「自然」と「文化」,「普遍」と「特殊」 1 動物は「もの」を超える? 2 動物から人類学を見る 3 人間と非人間のはざまで—サル学者の「捻れ」た立場 4 「転回」と人類学 5 「非人間」について 6 動物の主体性なるもの 7 「自然」と「文化」 8 人類学者という「われわれ」? 9 人類学のゆくえ 第13章 〈もの自体〉を巡る哲学と人類学 [檜垣立哉] KEY WORDS:思弁的実在論,もの自体,メイヤスー,大森荘蔵 1 〈「もの自体」の形而上学〉 2 思弁的実在論ともの 3 祖先以前的な「もの」 4 類似の問い—大森荘蔵 5 非相関主義の射程 6 課題の総覧 索引 執筆者紹介