現代人のための放射線生物学

賢志, 小松
京都大学学術出版会
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人の体には修復機構がある。しかしそれは万能ではない。福島の事故から5年を経ても、根拠のない楽観論の一方で過剰な恐怖が語られることがある。放射線を正しく評価するには、それが人体に与える影響を分子レベルから理解することが必須だ。「放射線の実体」から始め、生物影響・医学利用・環境放射線・放射線防護・原子力災害までを幅広く解説 はじめに 第1部 放射線の実体 Chapter 1 放射線の性質 1.1 さまざまな放射線の発見    放射線と放射能の発見/放射線の種類と透過力の違い 1.2 電離のしくみと放射線の単位    放射線が電離を起こすしくみ/放射線と放射能の単位 1.3 放射線の性質を利用した線量計    電離を利用する測定器/半導体を用いた測定器    シンチレーションを利用する測定器    ガラスの発光を利用する測定器/バックグランドと計数効率 Chapter 2 原子核反応の利用 2.1 放射性核種の自然崩壊    原子核崩壊の種類と放射性同位元素     一定の半減期でおこる原子核の自然崩壊 2.2 原子力発電のしくみと廃棄物処理    原子核分裂を人工的に起こす/原子力発電のしくみ    核燃料サイクルとは/廃棄物処理の問題 2.3 軍事利用された原子核反応    原子爆弾に利用された原子核分裂    水素爆弾に利用された核融合 2.4 放射線の産業と学術利用    さまざまな工業利用/さまざまな農業利用    年代測定への利用 Q&A 第2部 放射線と人体 Chapter 3 細胞への放射線作用 3.1 放射線によるDNA鎖の切断    放射線の生物作用の時間経過    直接効果と間接効果で起こるDNA損傷    DNA 鎖切断端の化学型 3.2 生物影響の評価法と数式モデル    増殖死をコロニー法で測る/SLD回復は緩照射効果の指標    細胞生存率を数式で表す 3.3 生物影響を修飾する諸因子    放射線防護剤と緩和剤で障害を減らす    酸素が放射線作用を強める    放射線の種類で異なる線エネルギー付与(LET)効果 Chapter 4 放射線を防御するDNA修復 4.1 DNA二重鎖切断の二つの修復経路    DNA二重鎖切断修復の研究と放射線高感受性細胞    放射線DNA修復は相同組換え修復と非相同末端再結合の2種類 4.2 放射線照射直後に起こる細胞反応    細胞増殖を一時停止させるチェックポイント    DNA構造を弛めるクロマチン再編成    修復よりも細胞死を進めるアポトーシス 4.3 DNA修復がもたらす副作用    細胞周期依存性とSLD回復/放射線突然変異 解説 1 ─細胞に残るDNA二重鎖切断の爪痕 Chapter 5 組織・臓器の放射線障害 5.1 放射線の確定的影響と確率的影響    放射線障害は確定的影響と確率的影響に区分される    組織により変わる放射線感受性/放射線障害の発症経過 5.2 組織特有なさまざまな放射線障害    皮膚の障害/精巣と卵巣の障害/眼の障害    その他 5.3 死に結びつく放射線障害と治療例    被ばく線量と生存期間の関係/骨髄死/腸死    中枢神経死/重篤な被ばく事故での治療例 Chapter 6 放射線による発がん 6.1 自然発がんのしくみと放射線    がん遺伝子の活性化とがん抑制遺伝子の不活化    自然に起こるがん化のしくみ/放射線発がんのしくみ 6.2 ヒトの放射線発がん頻度    有用な疫学資料/白血病の発生頻度    固形がんの発生頻度 6.3 放射線発がんを左右する諸因子    被ばく年齢の影響/緩照射および放射線の種類    その他の発がん関連因子 6.4 放射線発がんリスクとLNT仮説    LNT仮説とは/放射線リスクの過小評価を避ける 解説 2 ─ DNA二重鎖切断がヒトの発がんを引き起こす確かな証拠 Chapter 7 放射線による先天異常 7.1 放射線に敏感な胎児期    着床前の胚死/器官形成期の奇形/胎児期の小頭症 7.2 遺伝的影響が発生するしくみ    放射線による染色体異常/単一遺伝子によるメンデル遺伝    さまざまなヒト遺伝性疾患 7.3 予想外に低い遺伝的影響リスク    遺伝的影響リスクの推定方法/マウスの倍加線量を求める    放射線の遺伝的影響リスクの計算値    原爆生存者の遺伝的影響は確認できてない    体内被ばくによる発がんと継世代影響の可能性 Q&A 第3部 放射線と医療 Chapter 8 がんを放射線でなおす 8.1 がん治療の放射線生物学    癌治療に有効な放射線照射/低酸素細胞と放射線治療    がんの放射線感受性/正常臓器の耐容線量と治療効果比 8.2 がんと正常臓器の感受性を変える    低酸素細胞を減少させて放射線感受性を上げる    抗がん剤を併用する/正常臓器の障害を減らす 8.3 がん治療に優れた放射線照射法    高エネルギーX線を用いた三次元原体照射法    強度変調放射線療法/定位放射線療法    陽子線治療法/重粒子線治療法/組織内照射法    ホウ素中性子捕捉療法 Chapter 9 診断に使われる放射線 9.1 X線を用いるさまざまな診断法    X線写真撮影の原理/X線発生装置/X線の検出    マンモグラフィ/X線CT    インターベンショナル・ラジオロジー 9.2 放射性核種を用いる診断法    単光子放射断層撮影法/陽電子放射断層撮影法 9.3 放射線診断で受ける被ばく線量 Q&A 第4部 生命とDNA修復 Chapter 10 DNA塩基修復と生命 10.1 太陽紫外線と喫煙からDNAを守る    太陽紫外線によるDNA塩基損傷    喫煙によるDNA塩基損傷 /ヌクレオチド除去修復    損傷乗越えDNA合成/皮膚がんと色素性乾皮症 10.2 酸素毒性からDNAを守る    酸化によるDNA塩基損傷/塩基除去修復    発がんと塩基除去修復 10.3 飲酒からDNAを守る    飲酒によるDNA塩基損傷/DNA 鎖架橋とファンコニ貧血 10.4 DNAの複製ミスを正す    誤ったDNA塩基の取り込み /ミスマッチ修復    家族性大腸がんとミスマッチ修復 10.5 放射線によるクラスターDNA損傷    酸素ラジカルによりDNA塩基損傷が作られる    放射線に特有なクラスターDNA損傷 Chapter 11 放射線DNA修復と生命 11.1 DNA二重鎖切断修復の起源    地球生物と太陽紫外線/地球生物と放射線    DNA二重鎖切断修復タンパク質の起源    放射線以外の原因によるDNA二重鎖切断 11.2 進化を促進したDNA修復系    突然変異の起源としての損傷乗越えDNA合成    相同組換えと遺伝的多様性 11.3 健康維持に働く修復タンパク質    免疫多様性と非相同末端再結合    発がんバリアーと放射線損傷シグナル    テロメア維持とATM    ATM による抗酸化ストレスと糖尿病抑制 Q&A 第5部 原子力災害と放射線防護 Chapter 12 福島第一原子力発電所の事故 12.1 事故の経過と指摘された問題点    緊急冷却装置とベントの構造/事故の経緯    事故で明らかになったいくつかの問題点 12.2 周辺地域の汚染状況と食品規制    放出された放射性物質/外部放射線量と環境内での動き    食品の規制/食品中セシウム137の規制値の計算例 12.3 被ばく線量と健康調査    住民の被ばく状況 /住民の健康調査    放射線作業者の被ばく状況と健康調査 解説 3 ─セシウム137の生物濃縮 Chapter 13 世界の原子力災害と関連事故 13.1 原子爆弾と核実験による被ばく    広島・長崎の原爆被爆 /ビキニでの核実験    中国での核実験 /セミパラチンスクでの核実験 13.2 福島以外の原子力発電所事故    チェルノブィリ原子力発電所事故    スリーマイル島原子力発電所事故 13.3 核燃料処理施設での被ばく    セラフィールド原子力施設/ハンフォード原子力施設    マヤック核物質製造施設/東海村JCO臨界事故 Chapter 14 身の回りに存在する放射線 14.1 我々を取り巻く自然放射線源    自然放射線源と人工放射線源/大地中の放射線源    空気中の放射線源/食べ物と体内の放射線源    宇宙放射線/さまざまな消費財からの被ばく 14.2 自然および人工放射線からの職業被ばく    鉱山での自然放射線からの被ばく    航空機搭乗に宇宙放射線からの被ばく    人工放射線源からの被ばく 14.3 世界の高放射線地域と影響調査    世界の高放射線地域/住民の放射線影響調査 Chapter 15 放射線を管理する 15.1 放射線被ばく防護の基本法則    外部被ばくの特徴と防護の基本原則    内部被ばくの特徴と防護の基本原則 15.2 体内の放射能を除去する薬剤    放射性ヨウ素の取り込みを少なくするヨウ化カリウム    放射性セシウムの除去に有効なプルシアンブルー 15.3 放射能汚染地域での生活の工夫    家屋周辺での除染方法    被ばくを避ける家庭での対策 15.4 放射線被ばの規制と核軍縮の歴史    ICRPの基本的な考え方と勧告    職業被ばく線量限度の歴史/公衆の線量限度の歴史    我が国の放射線障害防止法/世界の核軍縮の動向 Q&A 参考図書 放射線の歴史 索 引 コラム Column 1 もう一つのポアンカレ予想 Column 2 半減期の十進法表記 Column 3 ラジカルとオゾンホール Column 4 遺伝子命名法とタンパク質の呼ひ?方 Column 5 象はなぜがんにならないか Column 6 幹細胞/ES細胞/iPS細胞 Column 7 白血病と骨髄 Column 8 がんと癌 Column 9 我が国のがん発生 Column 10 ビートルズとX線CT Column 11 日本人に飼い慣らされた毒素菌 Column 12 同時代の先駆者ダーウィン/メンデル/ミーシャ Column 13 我が国での内部被ばくの最高値 Column 14 スパイとポロニウム210 Column 15 ダイアルペインターの悲劇

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