集団―人類社会の進化
ペア/家族から民族/国家まで,ヒトはなぜ「集まる」のか? 集団形成における「暴力」と「誘惑」の役割,「見えない仲間」を描き出す表象能力,構造化されたsocietyにおける非構造のsocialなど,集団形成のメカニズムを進化の中で解き明かす.霊長類学と生態・社会文化人類学の第一人者による,本格的な共同研究. 序章 集団:人類社会の進化史的基盤を求めて[河合香吏] 1●はじめに 2●人類学と霊長類学における集団研究と進化論 3●伊谷純一郎の人類社会の進化論とフィラバンガの行列 4●本書の内容 5●用語について 6●今村仁司の存在 第1部 社会性の進化 1章 非構造の社会学:集団の極相へ[足立 薫] Keywords:非構造,生活形,混群,霊長類社会学,種社会 1●はじめに 2●社会構造進化論とBSU 3●構造と非構造 4●生活形の社会学 5●非構造から進化をみる 6●おわりに 2章 単独者の集まり:孤独と「見えない」集団の間で[内堀基光] Keywords:単独者,孤独,ペア,共在様態,ネットワーク 1●孤独から 2●集団性と社会性 3●ひとりとペア,そして人の群れ 4●「集まり」の効用 5●集団とネットワーク 6●「集まる」ことから制度へ 3章 人間の共同性はどこから来るのか?:集団現象における循環的決定と表象による他者分類[北村光二] Keywords:集団現象,進化,対称的な他者,循環的決定,分離された表象 1●はじめに 2●集団現象の生物学的基礎 3●群居的な生活形を採用した系統における集団現象 4●人間社会における環境との関係づけの活動の集合化 5●おわりに:サルと人間の間の差異を橋渡しするもの 4章 霊長類における集団の機能と進化史:地理的分散の性差に着目して[中川尚史] Keywords:系統的慣性,社会構造,淘汰圧,適応,父系社会 1●はじめに 2●社会構造の類型化 3●現在の社会生態学モデル 4●地理的分散の視点から父系社会の進化史を考える 5●まとめに代えて:初期人類の社会構造に関する新仮説 Article 1 チンパンジーの集団:メスから見た世界[伊藤詞子] Keywords:できごと,離合集散,全体性,境界,構造 第2部 社会集団のなりたち 5章 集団のオントロギー:「分かち合い」と生業のメカニズム[大村敬一] Keywords:カナダ・イヌイト,生業,食べ物,分かち合い,贈与 1●はじめに:出発点としての一元的な世界 2●日常世界を生成する社交の装置:イヌイト社会における生業 3●「信頼」と「誘惑」:イヌイトの生業における「人間」と「野生生物」 4●集団のオントロギー:人類社会の進化史的基盤としての「分かち合い」 6章 暴力と集団の自己産出:海賊と報復の民族誌から[床呂郁哉] Keywords:集団形成,海賊,報復,暴力Iと暴力II,暴力の遠心性と求心性 1●暴力と集団 2●スールーにおける暴力の民族誌(その):海賊 3●スールーにおける暴力の民族誌(その):報復 4●暴力と集団のオートポイエーシス 7章 徒党を組む:牧畜民のレイディングと「共同の実践」[河合香吏] Keywords:東アフリカ牧畜民,レイディング,交易,興奮,社会共同性 1●はじめに 2●「好戦的な牧畜民」像 3●レイディング・プログラム 4●レイディングにおける「共同の実践」 5●おわりに Article 2 昨日の友は今日の敵:パプアニューギニア・フリの社会[梅崎昌裕] Keywords:集団の流動性,争い,サポート,人口移動,都市住民 第3部 「われわれ」意識の生成と展開 8章 「今ここの集団」から「はるかな集団」まで:狩猟採集民のバンド[寺嶋秀明] Keywords:バンド,狩猟採集民,絆,ネットワーク,自立 1●はじめに 2●バンドのモデル 3●バンドの実態:「今ここの集団」から「はるかな集団」まで 4●バンドを生きる人びと:絆と自立 9章 感知される「まとまり」:可視的な「集団」と不可視の「範疇」の間[曽我 亨] Keywords:行為の同調,一時的な集団,感知される「まとまり」,「まとまり」の表象,文化範疇 1●はじめに 2●集団の可視性 3●同調する行為によって生成される一時的な集団 4●集団の重なりによって感知される「まとまり」 5●文化範疇と「まとまり」の相克 6●おわりに 10章 「われらベンバ」の小さな村:居住集団の日常と王国をつなぐしかけ[杉山祐子] Keywords:居住集団,王国,炉帯組,離散と集合のサイクル,参照する位相 1●はじめに 2●ベンバ王国と村の構成 3●さまざまな「集い」と相互交渉の蓄積がつくる村の輪郭 4●離散と集合:村の発展サイクルと権威 5●「参照する位相」の複層化 6●おわりに Article 3 ケニア・ルオという「集団」:社会人類学からの点描[椎野若菜] Keywords:ケニア・ルオ,植民地化,意識的な集団化,政治的闘争,アイデンティティ 第4部 新たな集団論へ 11章 集団的興奮と原始的戦争:平等原則とは何ものか?[黒田末寿] Keywords:チンパンジー属,対等性,平等原則,集団的興奮,原始的戦争 1●はじめに 2●集団現象と興奮 3●平等原則と闘争と興奮 4●一体化を求める興奮性動物 12章 エイジェントは誘惑する:社会・集団をめぐる闘争モデル批判の試み[田中雅一] Keywords:エイジェンシー,ネットワーク,代理,暴力,エロス 1●はじめに 2●闘争モデル:ジラール,今村,クラストル 3●ネットワークと関わり合い:対人関係の概念化 4●代理性:エイジェントとネットワーク 5●誘惑:エイジェントとエイジェントの相互作用 6●肉の共同体:メルロ=ポンティとともに 7●おわりに 13章 人間集団のゼロ水準:集団が消失する水準から探る,関係の意味,場と構造[船曳建夫] Keywords:場,場面,意味,高さ,構造 1●はじめに 2●人間関係の場と構造 3●人間集団が消失する水準 4●意味の場と,高さと構造 終章 「集団」から「制度」へ:まとめと展望[河合香吏,黒田末寿,北村光二,内堀基光] 1●Social集団の非構造性をあぶり出す:霊長類学領域から 2●「表象」を手がかりにした「活動の集合化」:生態人類学領域から 3●象徴化能力と制度による束ねへ:社会文化人類学領域から 今村仁司先生の遺したもの[西井凉子] あとがき[河合香吏] 索 引