生理心理学と精神生理学 第III巻 展開
ワーキングメモリ,デフォルトモードネットワークを中心に脳のはたらきに関する最新研究を紹介。発達・教育・臨床領域への展開も。 第1部ではワーキングメモリや今後研究の進展が期待されるデフォルトモードネットワークを中心に,脳のはたらきに関する最新の研究成果を紹介。第2部以下では発達・教育・臨床各領域への展開として,乳幼児の前頭葉の発達,読み書き処理と脳活動,統合失調症における脳波研究,ADHDにおける注意機能と実行機能などを扱う。 ◆主な目次 ●第1部 ワーキングメモリとかかわる脳のはたらき 1章 言語性ワーキングメモリと脳 2章 視覚性ワーキングメモリと脳 3章 ワーキングメモリと注意:ERPからのアプローチ 4章 色の認知・記憶と脳 5章 自己と脳 6章 視覚的注意と脳 7章 心的イメージと視覚性ワーキングメモリ 8章 ワーキングメモリネットワークとデフォルトモードネットワーク 9章 デフォルト・モード・ネットワークと瞬き 10章 安静状態脳活動と心理機能 ●第2部 発達・教育領域への展開 11章 乳幼児期における前頭葉機能の発達 12章 視線から探る乳児の心 13章 眼球運動と認知 14章 文字列の初期処理と読みの学習・発達・障害 15章 読み書き処理と脳活動 16章 暴力的ゲームにおける生理心理学的影響 17章 胎児期・乳幼児期のストレスとストレス応答 ●第3部 臨床領域への展開 18章 統合失調症における自己の障害 19章 統合失調症における聴知覚処理障害:脳波による病態理解から診断への応用 20章 自閉症スペクトラム障害におけるヒト認知 21章 自閉スペクトラム症の注意 22章 自閉スペクトラム症の聴覚特性と言語発達:MEGを用いた検討 23章 ADHDにおける注意機能と実行機能 24章 視覚障害者の脳波とイメージ想起による変動 25章 重症心身障害への生理心理学的アプローチ まえがき 刊行に添えて 第Ⅲ巻の編集者を代表して 第1部 ワーキングメモリとかかわる脳のはたらき 1章 言語性ワーキングメモリと脳 1節 はじめに 2節 ワーキングメモリの成立の背景 1.マルチコンポーネントモデル 3節 言語について 1.言語の進化と脳 2.言語の発達と脳 4節 言語処理を担う脳 1.音韻処理を担う脳 2.意味処理を担う脳 3.文処理を担う脳 5節 言語性ワーキングメモリ 1.言語性ワーキングメモリと視空間性ワーキングメモリ 2.音韻ループのモデル 6節 言語性ワーキングメモリを支える神経ネットワーク 1.音韻ループを支える神経基盤 7節 中央実行系を支える神経基盤 8節 フォーカス語に注目した言語性ワーキングメモリ研究 9節 経頭蓋直流電気刺激法を用いた検討 10節 おわりに 2章 視覚性ワーキングメモリと脳 1節 視覚性ワーキングメモリの心理学的特徴 1.視覚性ワーキングメモリの容量制約 2.視覚性ワーキングメモリ容量の単位 3.視覚性ワーキングメモリと高次認知機能 4.視覚性ワーキングメモリの発達 2節 視覚性ワーキングメモリの神経科学的特徴 1.単一細胞記録から見た視覚性ワーキングメモリ 2.ヒトの視覚性ワーキングメモリの脳機序(fMRIとTMSによる検討) 3.視覚性ワーキングメモリ容量の脳機序(ERPによる検討) 4.脳神経活動の同期と視覚性ワーキングメモリの容量制約 5.視覚性ワーキングメモリと注意 6.目の前に存在する物体に対する視覚容量の制約 3節 まとめと展望 3章 ワーキングメモリと注意:ERPからのアプローチ 1節 ワーキングメモリモデル 1.Baddeley & Hitchのワーキングメモリモデル 2.ワーキングメモリモデルの発展 3.ワーキングメモリと注意 2節 ワーキングメモリ容量の個人差 3節 注意課題とワーキングメモリ容量の関係 1.反応抑制課題とワーキングメモリ容量 2.ワーキングメモリ容量における目標維持と反応抑制 3.両耳分離聴課題とワーキングメモリ容量 4.まとめ 4節 ワーキングメモリ容量の個人差とERP 1.課題関連刺激に注目した研究 2.聴覚妨害刺激に対する研究 5節 視空間ワーキングメモリのトレーニング効果の領域性 1.ワーキングメモリのトレーニング 2.ERPによるWMトレーニング効果の検討 6節 今後の展望 4章 色の認知・記憶と脳 1節 色の知覚 2節 カテゴリカル色知覚 1.色名とカテゴリー 2.実験パラダイム 3.カテゴリカル色知覚の神経基盤 4.文化差 5.新たなカテゴリーの獲得 6.まとめ 3節 色の記憶 1.色記憶の特徴 2.色のワーキングメモリ 3.色記憶の神経基盤 5章 自己と脳 1節 自己認識とその変容 2節 身体的自己とその認知神経基盤 1.身体保持感の脳内基盤 2.行為の主体感とその脳内神経基盤 3節 心的自己とその認知神経基盤 1.自己表象の認知的性質 2.心的自己表象に関わる脳領域 4節 統合された自己 6章 視覚的注意と脳 1節 見えの意識と視覚的注意 2節 空間的注意課題と局所的な脳活動 3節 空間的注意課題とネットワークとしての脳活動 4節 時間的注意課題と脳活動 5節 おわりに 7章 心的イメージと視覚性ワーキングメモリ 1節 はじめに 1.心的イメージとは 2.心的イメージと脳活動 3.心的イメージの計算論モデル 4.心的イメージと視覚性ワーキングメモリ 2節 視覚性ワーキングメモリ 1.視覚性ワーキングメモリ 2.視覚性ワーキングメモリとCDA 3節 心的イメージと視覚性ワーキングメモリ 1.文字イメージ課題 2.文字イメージ課題中のCDA 3.心的イメージと視覚性ワーキングメモリを支える脳内処理 8章 ワーキングメモリネットワークとデフォルトモードネットワーク 1節 はじめに 2節 ワーキングメモリネットワーク(WMN) 1.WMNの概観 2.中央実行系機能 3節 デフォルトモードネットワーク(DMN) 1.DMNの概観 2.DMNとマインドワンダリング 3.DMNのマインドワンダリング以外の活動 4.DMNの活動の低下と課題によって誘発された活動の低下 4節 WMNとDMNの関係 1.WMNとDMNの競合 2.WMNとDMNの協調 3.WMNとDMNの競合と協調のダイナミックな変化 4.ネットワークの機能的異質性 5.WMNとDMN間の切り替え 5節 WMNとDMNの障害 9章 デフォルトモードネットワークと瞬き 1節 デフォルトモードネットワーク 1.デフォルトモードネットワークの発見 2.デフォルトモードネットワークの機能 2節 自発性瞬目 1.自発性瞬目の機能 2.瞬きと分節化:映像観察時の瞬きの研究 3節 デフォルトモードネットワークと瞬き 1.注意解除の神経メカニズム 2.映像観察時の瞬きに伴う脳活動変化 3.デフォルトモードネットワークの新たな機能 10章 安静状態脳活動と心的機能 1節 内因性脳活動の生理学的理解 1.内因性脳活動とそのパターン 2.内因性脳活動の状態差と個人差 3.内因性脳活動の操作 4.内因性脳活動の生理学的研究の心理学的意義 2節 内因性脳活動と認知能力,性格特性,精神疾患との関連 1.認知能力との関連 2.性格特性との関連 3.精神疾患との関連 4.内因性脳活動と性格特性等との関連を検討した研究の心理学的意義 3節 安静-刺激相互作用 1.内因性脳活動と意思決定との関連 2.刺激提示前の安静状態脳活動と刺激との関連 3.安静刺激相互作用研究の心理学的意義 4節 安静状態脳活動研究の限界と留意点 1.安静時の心的状態 2.安静状態脳活動の統制 5節 おわりに 第2部 発達・教育領域への展開 11章 乳幼児期における前頭葉機能の発達 1節 前頭前野とその発達 2節 実行機能とその発達 3節 乳児期の実行機能とその脳内基盤 4節 幼児期の実行機能とその発達 5節 社会的認識とその脳内機構 6節 今後に向けて 12章 視線から探る乳児の心 1節 乳児の視線計測の重要性 2節 乳児の眼球運動計測の基礎 3節 視線から覗く乳児の心 4節 心の起源を知るツールとしての視線の利用 1.乳児の視覚 2.乳児の学習 3.乳児の認知 4.視線計測技術の発展がもたらした乳児研究に対する新たな期待 13章 眼球運動と認知 1節 認知研究の指標としての眼球運動 2節 眼球運動の制御系 1.脳幹の制御系 2.上丘におけるサッカードの表現 3.前頭眼野とサッカード 3節 顕在的注意と潜在的注意 1.潜在的注意とサッカード軌道の関連 2.サッカード軌道湾曲と抑制の時間特性 4節 注意のPremotor説 5節 むすび 14章 文字列の初期処理と読みの学習・発達・障害 1節 はじめに 2節 文字列N170の基本的性質と機能的意義 1.文字列に対する増強 2.左半球優位性と神経基盤 3.文字列N170に反映される処理 3節 文字列N170の発達的変化 1.文字列への感度と左半球優位性の発達過程 2.読み能力との関連性 4節 発達性ディスレクシアにおける文字列N170 1.文字列N170の発達・出現の非定型性 2.原因仮説とのリンク 3.診断と介入評価への応用 5節 まとめと今後の展望 15章 読み書き処理と脳活動 1節 はじめに 1.読むという行為 2.書くという行為 3.読み書きの認知と階層性 2節 読み処理と脳活動 1.文字に対する早期の視覚処理段階 2.視覚情報から音情報への変換 3.発話 4.まとめ 3節 書き処理と脳活動 1.視覚表象の形成 2.視覚表象から運動企画へ 3.書き出し 4.まとめ 4節 読み書きの困難と脳活動 1.発達性読み書き障害 2.読みの困難に関わる脳機能 5節 まとめ:読み書き処理への立体的なアプローチ 16章 暴力的ゲームにおける生理心理学的影響 1節 暴力的ゲーム研究の台頭と社会的背景 2節 一般的攻撃モデルと生理心理的研究 1.メディアに対する心拍数の変動要因 2.ゲーム遂行中の生理心理的反応:情動と認知 3.脱感作と事象関連電位 4.動機システム活性化特性の影響 3節 暴力的ゲーム経験と動機活性化特性が情動的反応に及ぼす影響 1.実験参加者間要因の測定 2.生理心理測定実験 3.結果 4.考察 5.終わりに 17章 胎児期・乳幼児期のストレスとストレス応答 1節 ストレス応答の生体機構 2節 PNEI指標を用いた代表的な研究 3節 発達とストレス応答 1.新生児期・乳児期のコルチゾール分泌 2.胎児期ストレスと出生後のストレス応答 3.乳幼児期のストレスとストレス応答 4節 おわりに 第3部 臨床領域への展開 18章 統合失調症における自己の障害 1節 自己感の区別 2節 作為体験 3節 幻聴 4節 セルフ・モニタリング仮説 5節 自己主体感の多層モデル:最適手がかり統合仮説 6節 予測エラー信号の失調:階層的ベイズモデル 7節 自己作用感の低下と過剰な内省 19章 統合失調症における聴知覚処理障害:脳波による病態理解から診断への応用 1節 はじめに 2節 誘発電位・事象関連電位 1.P50成分 2.聴覚性MMN成分 3.LDAEP 4.神経心理検査との関連と聴知覚訓練 3節 神経同期 1.安静時δ律動 2.安静時γ律動 3.ASSRパラダイムにおける誘発γ律動 4.課題関連γ律動 4節 脳波を用いたBiotype分類への応用 20章 自閉症スペクトラム障害におけるヒト認知 1節 自閉症スペクトラム障害(ASD)に見られる認知の背景 2節 視覚を手がかりとした認知 1.顔 2.運動視 3節 聴覚を手がかりとした認知 1.声 2.発話 4節 ヒト認知機能評価の展望 21章 自閉スペクトラム症の注意 1節 はじめに:ASD研究の流れ 1.ASD研究の流れ 2節 新奇性の検出 1.MMN/MMF 2.P300 3節 視覚的定位 1.ギャップ-オーバーラップ課題 2.注意解放の困難さ 3.注意解放の発達 4.ASDの注意解放の特徴のまとめ 4節 おわりに 22章 自閉スペクトラム症の聴覚特性と言語発達:MEGを用いた検討 1節 自閉スペクトラム症の聴覚情報処理過程に関する古典的研究 1.はじめに 2.行動的特徴 2節 MEGによる自閉スペクトラム症の聴覚研究 1.M100(N1m)を指標とした検討 2.MMF(MMNm)を指標とした検討 3.MEGを用いた自閉スペクトラム症の聴覚・言語研究 23章 ADHDにおける注意機能と実行機能 1節 ADHDとは 1.診断基準 2.神経基盤 3.神経心理学的評価 4.ADHDの心理学的背景 2節 ADHDの注意機能と実行機能 1.ADHDにおける注意機能 2.ADHDにおける実行機能 3.動機づけ 3節 ADHD児への支援における生理心理学の寄与 1.薬物治療の効果に対する生理心理学の寄与 2.心理学的アプローチと生理心理学的研究 4節 おわりに 24章 視覚障害者の脳波とイメージ想起による変動 1節 視覚障害者の脳波について 1.1930年代における視覚障害者のα波研究 2.失明時期とα波の関連 3.視覚障害者のα波の優勢部位 4.先天性完全盲の視覚障害者の脳波 5.刺激によるα波の変化とその意味 2節 早期失明の視覚障害者における形態認知・イメージ能力と脳波変化 1.早期失明の視覚障害者はイメージ形成が可能か? 2.早期失明の視覚障害者における形態認知能力の個人差 3.視覚障害者の認知活動及びイメージ想起と脳波α帯域パワの変動 3節 まとめ 25章 重症心身障害への生理心理学的アプローチ 1節 重度・重複障害と重症心身障害 1.重度・重複障害とは 2.重症心身障害とは 2節 生理心理指標を用いた重症児の感覚機能評価 1.視覚機能評価 2.聴覚機能評価 3.その他の感覚機能評価 3節 身近な生理心理計測法を用いた重症児の機能評価 1.心拍変動からみる定位反応評価 2.心拍変動と唾液マーカーからみるストレス評価 3.パルスオキシメータを利用した食事状態評価 4.心拍変動を利用した期待反応評価 4節 重症児の機能評価に生理心理指標を用いる意義と限界 引用文献・参考文献 索引 監修者のことば